詩集にとりいれられなかった詩篇。
ここは忘れないための努力の在り処。探り当てたら口を塞いでいて、口という口、出口、入り口さえ。実情、すべてあの娘のために書き溜めた。何も知らない方が良かったかも知れないね。
書く、そして、
書く、そして書き得ない、
書く、その傍から、消え失せてしまうものがある、
消失するもの、それも、また生であり、
書く、書き得ない、それは、
書き損なわれた、わたしの生、
書く、空白に、
書き損なう、空白に、書き損なう、
空白に書き損なわれた、それは、
記録から脱落した、わたしの生、
されど、書く、
されど、
わたしに付き添って、欲しい、
書く、書き損なわれた、
すべて、
汲み尽くしてくれる、そのひとが、あなたなら、
書く、それに不足はない、
詩学生、
詩学生、
極限まで削り殺ぎ、音、
耳に届く彫像は、一寸の無駄がない、
それが、詩学、その極み、
神経病みの仕草で、
極限まで削り殺ぎ、音、
ロープを渡る、そのために、
男、
男は、ロープを渡る、=そのために、
ロープを渡ったという、
エッフェル塔でのこと、
エンパイア・ステート・ビルディング、での、
こと、
文字こそ初め、
生の仕草が、
音に変換する、
しかし、変換された、音、
が、
詩学生、に、
無駄を告知する、
削り殺げ、という、命令とともに、
それが、詩学、その極み、
神経病みの仕草を強いる、
ロープを渡るために、
ロープを渡ったという、
男、
彼を愛するなら、詩学、
削り殺げ、詩学、=生、
頁を埋めるな、
埋めろ、
生の頁、
生のページ、
埋めろ、
悲鳴、
悲、=鳴、
shigakusei
date at 10:17 july 6 2001
THE SONICS
震えているのに気付いている?
蒼ざめた、
夕景の少し後、
赦されて、
開くのは、
少年たちの、
口許、
残虐でいられる時間は短いと、
知りなさい、
いま少しの、
慎みを、
深く、
少年たちばかりが、
口を割る、
THE VELVET UNDERGROUND
埋葬された記憶を開きなさい。ここはもと、あなたの居た、ところ、埋葬された、
洞穴、ここは、死者の所在を示す、それは、冷たい、洞穴か、しかしそこは、温かく、子宮みたいで、不思議、いつでも、
いつでもそうだった。
あの映画のラストを思い出した。駆けつけたFBIによって、彼は、黒人であるという外観だけで、死者の群れと誤って白人どもに殺されてしまうんだ。鮮烈な発砲シーンで映画は終わった。
その映画はぼくの兄たちのカルトになった。
弟のぼくは死者の群れのように暗闇で踊る。埋葬された?
いや、まだ、
時間、が、ある。
時間、だけ、が、ある。
その間(あいだ)をぼくは生きてしまう。
ごめん、ね、
記憶を、埋葬したぼくは、いつでも、そのつもり、
そのつもりで、失敗する。
埋葬したつもりでいたために、
埋葬されてから、自然、蘇える、記憶に、潰される。
ひとたび、
開いてしまったために、
あるがままを見なさい、
泣いてはいけませんと、
それは実際のところ、
殺されるも同じです。
開けてはいけなかったんだ、あの、記憶は、永久に、記憶、
記憶、遅延されたぼく自身に襲われる、ということ。
ささやかな、
余暇を踊る。
その術、
すべて、ぼくの兄たちのカルト。
ヴェルヴェットに包んで、
地下に埋葬せよ、
それは一種、因習であり、
あなたの、好むもの?
兄たちのカルト、
つまり、ぼくらの。
命 名
石に名を刻み
レバノンの
石
パレスチナの石
イスラエルのミサイル
銀色のミサイルと
ナイチン・ゲール
「本日未明、パレスチナ暫定自治区でパレスチナ民衆とイスラエル軍との間で衝突がありました。パレスチナ住民がイスラエル兵に投石。イスラエル兵数名が軽症を負いました。イスラエル側は強硬姿勢を崩さず、パレスチナ側との停戦合意を無視し、報復としてパレスチナ暫定自治区の数箇所を戦闘機により爆撃。この戦闘による被災者はパレスチナ側のみ
約
」
石に名を刻み
レバノンの
石
パレスチナの石
イスラエルのミサイル
銀色のミサイルと
ナイチン・ゲール
年老いた
ナイチン・ゲール
ふたたびの停戦合意
手を休める
その暇(いとま)
もう
何年も血を見てきたわ
私たちの土地に
彼らが爆撃を加えるたびに
私の病院は患者でいっぱいになった
ええ
何人も死んでいきました
家族も分からない子供たち大人たち
みんな病院の裏庭の共同墓地に眠っています
名前の分かるひとは
きちんと名を刻んでいます
名前も分からないひとには
「その者」と命名します
碑銘をご覧ください
ほら
その者
ここに眠る
と
あるでしょう
その者
ここに眠る
と
あるでしょう
石に名を刻み
石
レバノン
レバノン
パレスチナ
nakao chisato at 2002 01/29 09:55
もし 死にたいと 死にたいと
こころから 願うなら
試みに
倒れ伏し 目を閉じて ものも考えず
ただひたすらに 暗闇とともにある しばらく
そんな時間を 過ごすといい
私 の 死
咽喉に 渇きを覚えても 起き上がることなく 目を醒ますことなく
水を希求せずにいられるだろうか
私 の 死
きっと 口中に 溢れる 唾液を 飲み下す その音とともに 終わることだろう
私 の 死
ひとつ 学ぶ
音は 生を得て 音立てる
唾液を 飲み下す 音立てる
束の間の
私 の 死
nakao chisato at 2001 12/07 09:06 饒 舌歩幅を気にするように歩幅を気にする |
nakao chisato at 2001 12/07 09:31 茨
|
家が音を立てる
家が音を立てる
ひとりきりの/
そう寂び住まい
不思議と
そう
不思議と/
家が音を立てる
幼少の頃の食卓
破壊されていない
団欒
ぼくと兄が
破壊したんだ
玩具を捨てる
/ように
父と母のささやかな
夢
団欒と形容される
食卓
ぼくと兄が
破壊したのは
もう随分
/昔の
父と母のささやかな
夢
団欒と形容される
食卓
子供と呼ばれる
時間は
僅か/
短く
家が音を立てる
「THE DEATH OF JAMES DEAN」
詩篇、
「THE DEATH OF JAMES DEAN」は、
ジェームス・ディーンの死の直後に、
「U.S.A」のジョン・ドス・パソスの手によって編まれた。
ジェームス・ディーン神話を最初に謳い上げた詩篇だ。
ぼくはもう一編散文「THE DEATH OF JAMES DEAN」を、
この世界に捧げる。
悪気はない。
ただ、
狂う道には、
整列したベッドが待っている
だけだ。
堕ちる道の先には、
正装した看護婦が待っている
だけだ。
そのとき、
ひとは
自動人間。
快復の手ほどきを加えるのも、
正装した
医師。
きみの役目は
≠だけなんだ≠
生きるだけ
≠だけなんだ≠
生きる。
それでも、
「THE DEATH OF JAMES DEAN」
心に茨を持った少年たちのうす蒼い吐息、
いまも伝説を口零す。
渋谷のカフェで、
半世紀を生きた
灰野敬二がぼくに語った。
「ジミ・ヘンドリックスだって、生きていたら、
どんなにつまらないことをやっていたか分からないよ」
心に茨を持った少年たち、
きみも知っている通り、
ジミ・ヘンドリックスはゲロを詰まらせて死んだ。
「僕等はそんな遺産を引き継ぐ必要はないんだ」
灰野敬二、hainoと検索してごらん、
世界中のサイトが
リストアップされるよ。
半世紀を生きて、
彼がぼくに問うんだ。
「実のところ、病気だからって、もう諦めていないかい?」
彼は酒も煙草も
ヤラナイ。
心に茨を持った少年たち、
生きている間がいちばん苦しい、
自然の理(ことわり)。
きみは、
「もう既に堕ちているから」、
この土地にいるんだ。
ジョン・ドス・パソスの
「THE DEATH OF JAMES DEAN」は、
「THE DEATH OF JAMES DEAN」というタイトルながら、
心に茨を持った少年たちの
「THE LIFE」
を詠っていた。
つまり、
いま、ここにあること、を。
ダイジョウブ、
きみはもう堕ちている。
ダイジョウブ、
世界はもう充分
狂っている。
「THE DEATH OF JAMES DEAN」
書くというのはね、
心に茨を持った少年たち、
実のところ、
この世界に
しがみつく
仕草なんだ。
THE DEATH OF JAMES DEAN≠THE DEATH OF JAMES DEAN.
意味が消失するまで、
何度でも
反芻してごらん、
少年、
少年、
THE DEATH OF JAMES DEAN≠THE DEATH OF JAMES DEAN.
意味が消失するまで、
何度でも
反芻してごらん。
きみはそのために、
心に
茨を育てている。×→茨を育てている、
実のところ、
そのためだけに、×→そのためだけに
ね。
詩世界、詩≠世界、唯物論講義
以下、
レッスン。
詩世界は、
詩、世界は、
視差の問題だと思う。
いまだ
ジャック・デリダも跪く
唯物論。
詩世界、
詩、世界、
視差というキー・ワードが、
詩とグランド・テオリ−、
世界観の間を
埋める。
どんな色に映るの?
すべて、
例えば、
百合、の、<華>、と、ぼく、の、<差>、
視差。
縮められる、
離れてしまう。
http://www1.neweb.ne.jp/wb/haino/
http;//www1.neweb.ne.jp/wb/haino/contents.html
どんな色に映るの?
縮められる、
離れてしまう。
「違う」、
「違う」、という、哀しい、
哀しい記号、
哀しい記号を、
使わないで、
使わないでいてくれたなら、
それでいい、
と、
あのひとも
言う。
レッスン、
例えば、
詩一編の可能性は、
詩≠世界
≠
記号、
≠、
≠
正しい
≠。
模範解答、
例えば、
以下のような、
一編の詩の可能性。
「詩≠世界」
孤高の曲芸
ぴんと
張られたロープ
そのうえを
慎重に
歩む
一とニと
数えながら
一歩と二歩
を
孤高の営みは
群集のうえで行われる
衆人監視のもと
一の無駄も許されない
一の無駄が
ロープ
私を地に
落とす
白紙にタイプする
一の無駄が
白紙を
屑へと変える
衆人監視
と
詩作の営為
孤高の
曲芸
私は中空に
いる
嘘ではない
嘘は
一の無駄になる
故に
私は中空にいられない
いま
私は中空と呼ばれるところに
いて
あなたを見て
いる
あなたが見て
いる
険しく
とても険しく
二十歳のレッスン
消えてしまうもの、
消えてしまうもの、
真白き罪に、
包まれていた、
消えないもの、
消えないもの、
真白き罪に、
包まれていた、
書く、最後まで、書く、
真白き頁をペンで汚す、
その仕草は、生への執着、
嘲笑えば、笑えるもの、
哀しき、ひとの、仕草、
書かない、最後まで、書かない、
真白き追憶の底に埋める、
その仕草は、生への執着、
嘲笑えば、笑えるもの、
哀しき、ひとの、仕草、
慈しみについて、語りましょう、
消えてしまうもの、
すべて、
消えないもの、
すべて、
真白き罪に、
包まれていました、
百合の花弁、一房、
ひとふさ、
ヒトフサ、
真白き頁をペンで汚す、
真白き追憶の底に埋める、
すべて罪ある、怩オみの、作法、
その作法は、本ソにおいて、真白い、
もっと、
わたしたちは、もっと、
怩オみについて、語りましょう、
二〇歳のレッスン、
真白き罪に、
包まれたまま、
たとえば、誕生日おめでとう、
そんな言葉に、
ありったけの慈しみを込めて、
百合の花弁、
そのとき、言葉は、
真白き罪に、包み込め、魔術、
百合の花弁、一房、
ひとふさ、
ヒトフサ、
穢れることを、恐れずに、
真白い、
捧げます、
今日だけは、
あなたに、
二〇歳のレッスン
その胸のうち、
その胸のうち/ノイズ/掻き乱す/ノイズ/ぼくのことを覚えていますか/ノイズ/わたしのことを忘れないで下さい/ノイズ/その胸のうち/
その胸のうち/ハレーション/掻き乱す/ハレーション/いつからこうなったのかぼくにも分かりません/ハレーション/どうしてそうなったのかわたしにも分かりません/ハレーション/その胸のうち/
誰かの記憶にしがみつきたい、
生の痕跡を、
この世界に、
遺したい、
その胸のうち、
誰もいないところに行きたい、
跡形もなく、
この世界から、
消え去りたい、
その胸のうち、
その胸のうち/ノイズとハレーション/掻き乱す/ノイズとハレーション/ぼくの声は大きすぎるかもしれない/ノイズとハレーション/わたしは少し喋りすぎたのかもしれません/ノイズとハレーション/その胸のうち/
「手を繋いだ」手を繋いだの」その胸のうち、
声帯を振るわせろ、
慈しみによって、
声帯を振るわせろ、
慈しみが溢れるように、
声帯を振るわせろ、
毎日が慰霊と、
声帯を振るわせろ、
見送りの日に、
声帯を振るわせろ、
慈しみが零れだすように、
声帯を振るわせろ、
その胸のうち、
声帯を振るわせろ、
慈しみが包み抱くように、
その胸のうち/ノイズ/
その胸のうち/ハレーション/
その胸に手を当て、
深呼吸、
ひとつ、
ふたつ、
耳をすます、
眼を見開く、
誰も泣いていない、
誰かが泣いている、
誰もいない、
誰かがそこにいる、
その胸のうち、
ひとかけらの、
慈しみを携えて、
たとえば、
亡くなりゆくひとたちのために、
天国を信じてみる、
「手を繋いだ」手を繋いだの」鼓動が伝わった」鼓動が伝わったの」その胸のうち、
「鼓動を感じた」鼓動を感じたの」その胸のうち、
二〇歳のレッスン
二〇歳のうちに、
知りえたこと、
決まり事ではない、
この世界のありのままを、
例えば、
美し「き」ものは、
美しくない、
美し「い」ものは、
美しい、
僅か一文字に壮大な距離、
そこには歴史があり、
私は、
歴史を知り、
世界と語る、
それは終わらない対話、
私と世界の、
対話を怠ったものは、
詩人を死ぬことができない、
例えば以下のような幾編の詩の可能性、
「
美しき詩人は、そして、
美しくなく、
美しい詩人は、そして、
美しい、
」
美しい、
」
date
at 04:16 AUG.22 2001
フェデリコ・フェリーニ
一本の映画を観る、
夢、
うつつ、
その狭間で、
さまざまに、
女たちと戯れる、
ひとりの映画作家、
ひとりの映画作家を描いた、
映画、
一本の映画を観る、
フェデリコ・フェリーニ、
女たちと戯れる、
ひとりの映画作家、
ひとりの映画作家は、
やがて妻の許に舞い戻る、
永く、
ないがしろにし続けた、
その妻の許に舞い戻る、
そんな、
一本の映画を観る、
ひとりの映画作家、
ひとりの映画作家の名前を憶える、
フェデリコ・フェリーニ、
ひとりの映画作家は妻とふたり、
女たちと戯れる、
その後、
舞い戻るその先、
妻に誓う、
実のところ、
答えは分からない、
それでも、
と、
ひとりの映画作家は誓う、
妻に向かい、
向かい、
語り、
誓い、
誓う、
人生は祭りだ、
共に生きよう、
一本の映画を観る、
筋を辿るその仕草は、
人生のように、
実のところ、
答えは分からない、
それでも、
誓い、
誓う、
人生は祭りだ、
共に生きよう、
フェデリコ・フェリーニ、
フェデリコ・フェリーニ、
イタリア、
イタリア、
date
at 04:33 13 june 2001
写真家、Oの野心/「愛惜」
写真家、
Oは、
廃墟ばかりを、
好んで、
シャッターを、
切る、
理由を、
その野心を、
尋ねても、
返るものは、
照れた笑いと、
「なんとなく」
という言葉、
そう、
「なんとなく」
廃墟は、
ぼく、わたしの、
心を掻き乱して、
止まない、
一冊の本が、
語る、
「世界は日々、廃墟を産出し続けるのみだ」
と、
古いレコード・プレイヤーは何処に捨てたの?
あたらしいCDプレイヤーを手に入れた後に?
写真家、Oの野心、
しばし、
観るものを沈黙に追いやる、
「愛惜」
ひとは聴くのだ、
レコード針が立てる、
微かなスクラッチ・ノイズを、
Oの写真に、
懐かしく、
こころ、
苦しく、
こころ、苦しく、
方舟
方舟にはちさとちゃんと、
わたしの狂った仲間たちを乗せるの、
そして、
わたしは乗らない、
立島夕子は電話口でそう囁いた、
ぼくらの魂が船を漕ぎ出すとき、
様々に軋む音を聴くだろう、
悲鳴を上げる者たちの正体は、
わたしは、
乗らない、
未明の電話で、
彼女は確かにぼくに告げた、
わたしは、
乗らない、
すべての悲鳴は、
叫び声であり、
しかし、
すべての悲鳴が、
大きな声で叫ばれるとは、
決していえないことを知る、
未明に囁かれた悲鳴、
わたしは乗らない、
ワタシハ、
乗ラナイ、
荒、れ狂、う、うう、う、海原、に、は、は、
今、<今日>、日、も、
ルボックスを、
一錠、
投下、し、
なさい、
ぼくらの魂が、
船、を、を、
船を、漕ぎ出す、
とき、
From nakao chisato at 2001 11/03 04:09
「こんなに散らばってしまった正義 こんなに散らばってしまった正義 それをひとつにしようなんて この形のままで」
灰野敬二、ハーディガ−ディを動かす手をしばし止めて、楽器は肉声のみ、言葉こそが届くように歌い上げる、東京新宿の外れ、今夜の客席はまばら、
「正義を宇宙に解き放つ詩を歌っているのに、客席は20人だよ、自分のコト、伝道師だとでも思わないとやってゆけないな」
素晴らしい言葉が開かれるとき、受け手の認識は豊かに羽ばたき、あらたな生を生きる、それは歴史の一瞬だ、しかしその実態は伝説の中で語り騙られるものではなくて、さあ、いまチケットを手に会場に向かえばしっかりと手に入れられる、そんな生活の上の歴史で、
「こんなに散らばってしまった正義 こんなに散らばってしまった正義 それをひとつにしようなんて この形のままで」
アフガン空爆による死者1500人。
終演後、
なかおくんお香立てもうひとつどこにあるか知らないかな?
あ、いまぼくの手の中にあります。
わすれもの
わすれもの愁う私の身、
消え入るものを追いかけて、
わすれもの手探る私の身、
怯える記憶の消尽のさき、
わすれものされた私の身、
抱きすくめるは消え去った彼女の身、
わすれものは然りと記憶の底、
抱きすくめられない彼女の身、
こんなに遠く離れて、
繋がれた手もほどけては、
追憶を辿るわたしのみ、
抱きすくめられない、
彼女、
わすれものの実、
なみだの実を一粒だけ蒔こう、
陽照りの土に、
そこに、
やがて抱かれる百合を祝おう、
わすれもの愁う私の身、
一瞬に消え行き、
抱きすくめられない、
消尽のさき、
わすれものを、
私の身、ひとつ、
花までも、ひとつ、
わずか 偶然の 闇
わずか 偶然の 闇
もの
語らないひと
が
待合室
ぼくが座る
ひとつまえ
の
ソファに腰掛けていた
壁際に張り付くかのように
そのひと
は
頭痛と
戦っていた
その姿は
痛ましく
そのひと
の
過酷な病状
を
思い知らされず
には
いられなかった
ダイジョウブですか
声を掛けず
には
いられなかった
そのひとは
振り向いて
ぼくに
こう言った
あなたこそダイジョウブですか
わずか 偶然の 闇
そのひとの両眼に映る
ぼくは
そのひとの両眼に宿る
深い闇にしかと呑み込まれて
いた
わずか 偶然の 闇
おはよう
こんにちは
こんばんは
今日はお元気ですか
乱反射する残響
返り来る言葉
あなたこそダイジョウブですか
あなたこそ
あなたこそ
わずか 偶然の 闇
それは闇に掴むもの
それは闇に掴むもの/確証はない/手探りで/細心の注意を払い/それは闇に掴むもの/確証を得る/
痛烈な耳鳴りに悩まされる
頭痛が止まない
吐き気を催す
足元が揺れては覚束ない
錠剤に手を伸ばす
その前に尽きる
金属音が乱反射して聞こえる
責められている
金属音は怒号に変わる
もう一度
錠剤に手を伸ばす
水がない
唾液で嚥下する
咽喉元に錠剤がつかえる
咳をする
錠剤が吐き出される
怒号は嘲りに変わる
吐き出した錠剤を拾おうと屈みこむ
二度と起きられない気になる
しかし床に肘付き起きる
起きる
渦は一瞬の静けさ
静けさを窺い
蛇口まで辿り着く
今度こそ錠剤を嚥下する
確実に
手は濡れる
蛇口まで辿り着いた
効能が現れるまでの約二〇分間
ベッドに伏す
瞳を閉じる
そこに
柔らかな闇が生まれる
震えは未だ収まらないが先ほどまでより
怖くない
柔らかな闇に包まれて
在る
在るということ
もう怖くない
先ほどと較べたら
少しは怖くない
在る
在るということ
それは闇に掴むもの/確証はない/手探りで/細心の注意を払い/それは闇に掴むもの/わたしは人間です/確証を得る/
在る
在るということ
そのときの眼、
吐く、
口の周りに吐瀉物のかけら、
粘つく、
足元の砂で、
顔をすすぐ、
頭蓋が弾け飛んだ、
亡骸が、
目の前に、
横たわる、
そのときの眼、
少年は驚きのあまり、
その場から逃げ去ることさえできなかった、
司令官の命でわたしは発砲した、
その直後、
少年の頭蓋は吹き飛んだ、
誰だ、
敗残から五十六年、
兵士を勇猛と称えるのは、
わたしは上官の命を絶対不可侵の天皇陛下の命と同じと仰いだだけだ、
わたしは、
抜け殻のような人間だった、
抜け殻のように人間だった、
もう余命幾ばくか、
あなたたちはわたしの話を直に聞ける最後の世代、
上官は楽しみで少年の殺害をわたしに命じた、
そのときの眼、
自動機械のような上官の眼、
ひとであった少年の眼、
敗残から五十六年、
いまだ幽閉されたまま、
そのときの眼に、
一昨夜、
ひ孫が生まれた、
その眼が怖い、
八月の水滴
徘徊/の/粗描/恥かしみ/に/沈んでいました/太陽/が/眩しく/照りつける/その分/この土地/に/は/翳が/ありました/翳をこそ好んで/ぼくは眠る場所を探します/徘徊/の/粗描/
きみと
ずっと
遊んでた
夏の日の
亡霊/死者たちの行進を見ました/軍服/を/着た/死者たち/が/灼熱/に/瓦礫と/化した/この土地を彷徨っています/八月だ/今年も/あの/八月と/ぼくは知りました/
雨の薫りと
バラバラな光と
女の子/が/ぼくを惑わせます/厳しい/熱射/に/眩暈して/彼女は/ぼくを/裏切りました/数ヶ月前に/ぼくが/彼女を/裏切ったからです/八月だ/今年も/あの/八月と/ぼくは知りました/
ぼくよりずっと輝いていたね
ぼくよりずっと輝いていたね
重い
薬
で
脳
を
身体
を
麻痺
させ
顛倒
もう死なないと約束しました/この土地でもう死なないために/この土地の者は/修練/を/積み重ねてきました/今日まで/
重い
薬
で
脳
を
身体
を
麻痺
させ
顛倒
亡霊たちの行進/彼女の裏切り/八月の水滴/は/罪/の/隠喩/数ヶ月前に/ぼくが/彼女を/裏切ったからです/
ばらばらな悲しみと
ばらばらな憎しみに
さよならを
さよならを
ぼくの手は濡れている/
軍服の亡霊たち/の/足元には/さらなる/亡霊/が/憑いていました/ぼくと/同じ/皮膚/の/色をして/しかし全身/血/に/塗れていました/あの亡霊たちの名前をご存知ですか/亜細亜/死なない努力/殺さない知恵/
覚えているから
全部
ぼくのせいさ
重い
弾薬
で
脳
を
身体
を
麻痺
させ
顛倒
徘徊/の/粗描/八月/の/水滴/ぼくの手は濡れている/
ぼくの手は濡れている/
濡れた/手/で/彼女/の/名前を/墓碑に刻み込みます/刻み/込め/刻み/込む/八月/の/水/滴/
八月の水/滴/
ぼくよりずっと輝いていたね
ぼくよりずっと輝いていたね
date at 04:10 AUG.22 2001
回廊
回廊
には
歴史
だけ
が
刻まれていた
椅子
には
幸せ
の
ない
ひと
たち
だけ
が
座っていた
順番
を
待つ
間に
は
叫んでいるひとがいた
東京
大学
病院
精神
神経
科
外来
診察
室
順番
を
待つ
間に
は
叫んでいるひとがいた
大理石が組み込まれた豪奢で巨大な螺旋階段を音を立てて降りる地下の回廊には幸せを忘れたひとたちが
幸せ
を
忘れ
て
そこ
に
いた
その
記憶
を
忘れ
ない
順番
を
待ち
診察
を
終え
大理石が組み込まれた豪奢で巨大な螺旋階段を音を立てて駆け昇り地下の回廊の幸せを忘れたひとたちが
一刻
も
早く
回廊
の
記憶
を
消し
去り
回廊
から
消え
去る
回廊
を
消え
去る
回廊
は
消え
去ら
ない
回廊
は
消え
去る
いつ
の
こと
か
回廊
は
歴史
だけ
を
刻んでいる
一対の もう 動かない わたしたちの 椅子 肘掛の 言葉を 生めずに もう
動けない わたしたちは 、
会話の ない 食卓の 飢え 。
ノイズ 、 不幸の 報せさえも 、
沈黙を 埋める 福音として 働き 、
( 瓦解した 団欒 、)
ノイズ 、決して 挙動 椅子を 引き摺る
( ここで ノイズ 、)
わたしを 、
元の 場所に 還してください 。元の 形のままに 。
望めるなら 一対の 懐かしい 椅子 肘掛の
( 、 そこに 在る 無 )
重力 の 停止 。
( とても 懐かしい 一対の 無 )
重力 の 停止 。
わたしたちに、鎖は、
わたしたちに、鎖は、黒くなく、鈍くなく、
わたしたちに、鎖は、明け方になって、静かに確認するもの、
引き剥がされずに、
いられた、
昨夜を想う、
わたしたちに、鎖は、黒くなく、重くなく、
しかし、
そうして、
果てしなく、
重い、
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