words
by
nakao chisato
013
2004年6月23日
列島を横断した台風が北方へ抜けた。
嵐への臆病は台風が過ぎ去っても、ぼくを去ることはなかった。
死にたくない。
その思いはぼくにあっては恥かしいほどの騒乱さを盛っている。
よかった。
2004年6月23日と日付けることができて本当によかった。
嵐の翌日の「日」。
その日付を日付けることができる「日」
透析の継続の必要を絶えず観察記録すること。
透 析
一点
「生命の等価」
から対蹠
点「生命は等価
?」を
伝う思考
線
を辿る
線上のさらなる
一点「ペインは19日、3月の列車同時爆破テロから100日を迎えた。多くの死傷者を出したマドリードのアトーチャ駅では、大型画面にメッセージを映し出す「言葉の空間」が設けられ、市民や観光客が犠牲者への思いやテロへの怒りをキーボードを使って打ち込んでい」との思いがけない邂逅
食卓での黙想の仕事
私には
いささかの準備もなく
一点から対蹠点を伝う思考
線を辿る
線上
で
思考
線そのもの
の消失
事件のその日より眠れない夜が続きます背後で唸る不覚の音に恐怖し映像の喚起のリピートの記憶の肥大の萎縮の末に透析を開始する必要があります先ほどまで滞っていた私の血流がいま温かく私を発熱します恐怖の偏在の恐怖の拡散の恐怖の透徹の恐怖
「生命の等価」
「生命は等価
?」
反証可能性の立証不可能性の生/
命の等価
ペインは19日、3月の列車同時爆破テロから100日を迎えた。多くの死傷者を出したマドリードのアトーチャ駅では、大型画面にメッセージを映し出す「言葉の空間」が設けられ、市民や観光客が犠牲者への思いやテロへの怒りをキーボードを使って打ち込んでい
患者の意識の回復を祈る声が今なお市街の至るところで聞かれます
words by NAKAO Chisato
針
針先を数秒見つめてみる緊張の造成
無理をして
緊張する
無理をして
傷みを造成する
想像力はいつになれば血を流すだろうか
針先を数秒見つめてみる決意の造成
無理をして
私は針を指先の表面に突き刺しました拍子抜けするほどの余りに軽い傷みが僅か数秒だけ続きました
決意をして
私は針を指先深く突き刺し続けました拍子抜けするほどに余りに軽い傷みが僅か数十秒だけ続きました
針先を数秒見つめてみる凋落の造成
決意をして
流血する
決意をして
傷みを造成する
行動力はいつになれば血を流すだろうか
私の生命力はいつになれば止血を決意させるだろうか
私の指先
だらしなく血は流れ止血の必要もなく敢えなく凝固するだろう血に仕組まれた
私の想像力ではいま
生き物たちの流血とミサイル
目前の針先に宿した私の想像力ではいま
生き物たちの未来が陥落しました拍子抜けするほどの余りに軽い傷みが僅か数秒だけ続きました
堅牢たる麻痺
だらしなく血は流れ止血の必要もなく敢えなく凝固するだろう血に仕組まれた
堅牢たる麻痺
私たちの摩滅
000
2002年5月31日
雨は誰しも期待していない。
そして、とても寒い。
風は恐ろしく吹く。
依頼人の希望に適うように一枚のファイルをアップロードする。
風には固有のうねりがある。
ファイル名は「one year」とした。
001
2002年6月1日
かつてUK、王国を戦慄させた屍体の話を少し。
ゾンビーズの解散後、ヴォーカリストだったコリン・ブランストーンに、内省の時間が訪れた。
人気バンドの喧騒と少し距離を置いた、そんな時間。
彼は7月に歌い、翌年の7月に歌い終えた。
その内省のセッションはアルバム「one year/colin blunstone」に翳り深く刻み込まれている。
そのタイトルを「one year」と冠しても、収録曲数は10曲。
丁寧に12か月、つまり12曲刻まれたわけではない。
「one year」にして10曲。
そのことを不思議に思うぼくの感性は貧弱だ。
「one year」はカレンダーのようで、しかし同じものではない。
彼、colin blunstoneにとって、内省の「one year」は10曲の歌だったということ。
あなたと遇するこのファイル名もまた「one year」。
ただ、12のソネットを保証することはできない。
また、「one year」が、一年間であることも約束できない。
風に固有のうねりがある。
待望されない雨がしかし 、
そんな6月 、
2002年4月、NARCISSE!との邂逅から 、
季 節 は 錯 乱 。
四 月
さくら 花 弁を 散 らしたの はオ レ 雨 風 四 月の
陽射し 世 界を 照 らすの はオ レ 太 陽 大 気 四 月の 凶 暴 非 道 な ( オ レと )エ ーテ ル の乱 交に
い まだ 注 げ四 月注 げ
002
時に想い返す。
そのしなやかな文体をこそ 。
その後の研究が女史を追い越そうとも 、鳴り止まない
ぼくにしては永遠の 、
ハ リ ス ン 女 史。
芸 術 に つ い て 祭 式 と の 連 関 に 気 づ い た ら き み の 季 節 だ
彫 像 の 彫 る と い う こ と
其 の 祈 り し か し 労 働 に 気 づ い た ら き み の 季 節 だ
ガ ム ラ ン の 鳴 ら す と い う こ と
其 の 鳴 ら す し か し 労 働 に 気 づ い た ら き み の 季 節 だ
詩 人 と い う
社 界 層 に 位 置 す る
織 れ
い ま だ 臆 せ ず に
織 れ
其 の 労 働 は 眠 ら ず に 眠 ら な い 詩 を 織 る だ ろ う
い わ え、
祝 お う。
( 其 の 詩 の 発 明 を こ そ )
003
実のところ詩論を語るほど、詩に拘泥はしていない。
ぼくにとってそれは書けるものであって、書くものではないとすら感じていた。
それでも 、
そうした倣岸な意識の底流には霊感への信仰が潜んでいると、その新しいものの自覚に鈍なることに気づいた。
風にはうねりがあり、ときに悼めるように吹く。
あなたへではなくわたしへの次の詩は 、
あなたを傷めるためには吹かない 。
信じて 、欲しいのに 、きっとあなたは 、信じない 。
そ れ は 、し か し
我 ら 人 間 の 難 破 。
かつて私の背中に死が近づくとき
かつて私の背中に死が近づくとき しかし それでも 知らずにいたと 歌うのだろうか
私 独り身 の
あの
桜桃の味
を
いつだって 死 に 至る 病 は 私 の 生 に 不本意 に 侵入 した
そして 私 は
一切 の
気にもかけなくなった
病 を 自 己 同 一 性 の 基底 と する
その 滑稽
を
順列
の
逆転
を
ステファヌ・マラルメ
充分に 全うした その 生 の 中
しかし 我 が 児 アナトール の 死
の
只中 で
掘り 起こされた
数々 の
本物 の
詩
の
只中
の
数々 の
あの
桜桃の味を知らないというならば
私 の 生 に
訪れるでしょう
死者 が 生きるもの こそ を 悼む
そのとき
が
難破 が 訪れるでしょう
生きた 私 は 振り返る 恥辱 に 顔 を ゆがめながら
かつて私の背中に死が近づくとき
しかし
軽く 否 とした
あの
桜桃
の
味
私 独り身 の
桜桃の味を忘れたと書き放った
人間 の 難破
詐
欺
偽
証
詐
術のために 詩作 を 謳う 私 の 手 は とても 幼く
小
さ
な
人間 の 難破
狂気 は 廃棄すべき
確かに
死は私の背中に近づく
生にこそ背中を向けた
私 の 死
死 は 私 の 背中 に 乗る
生にこそ背中を向けたのは
誰
私 独り身 の
死 を 招き入れた 私 を 私自身 が 忘れているかぎり 私 の 手 は あまりに 幼く
ひとひらの詩を編むこと
も
できない
私は(あなたと)詩が死ぬ瞬間にのみ赴き 立ち会う
その詩は
かつて私の背中に死が近づくとき徹底した自己弁護と偽証を遺して生に勝てたと勇む私の難破を悼む 。
004
2002年8月6日
沈黙の正体が苦しくあるのならば、私はあなたを想像する。
「わたしの痛みは誰にも分からない」
あなたはそう言うかもしれない。
実はあなたはその言葉で、私の痛みからの想像力を否定する。
私の痛みを悼むことなく。
繰り返し。
沈黙の正体が苦しくあるのならば、私はあなたを想像する。
私の痛みからの想像力。
解 離。
未熟、 そして不用意な狂気があなたに貴女の煌く刃を剥き出すとき
あなたは貴女の手首に
ひとひらの傷
細く長く延びる生
そのうちも生き延びる
あなたの貴女からの解 離
その歩幅、発語、表出まで
解
離
する
瓦
解
する
あなたは
その実、わたしの麗しい希望
そのひと
どこまでも届かないで在る
その
解
離
わたしの麗しい希望
三十九度の熱射があなたを悼む今年の夏にもまた核の投下降り注ぐ黒い雨をあなたが天を仰いで啜り飲むその音に連られてやはり世界は衰退の道へと一歩と一足赴く市場の混乱はあなたにミルクさえ与えはしない
解
離
私に迎って手を振る散る降り注ぐ血
黒
い
雨
しかし、わたしの麗しい希望
適うならばいますぐに止血せよ
またも傷つくために生まれ変われその白い皮膚降り注ぐ血
黒
い
雨
あなたの麗しい希望わたしのあなたからの
解
離
明日もまたきっと炎天に焦げる
灼熱に歪む、
わたしたち
の
こ の 眩 し 過 ぎ る 世 界。
いつか必ず訪れるあなたの弔いの時間のためにわたしは生涯を通じて予めこの身を浄めていようと想う。
叶うならば、 わたしはこの身を浄めていようと想う。
005
2002年10月17日
勇ましく 、忍耐強く 、あなたの 、わたしへの 、
拒絶は 、
勇ましく 、忍耐強く 、
わたしを 勇気付けるほどまでに 、
どうか 、わたしを 、
拒絶を 、
続けて 、欲しい 。
やがて 父になるのか わたしを 、
撃て 。
軍 人
教師は軍人だ 撃て 看護婦は軍人だ 撃て 医者は軍人だ 撃て 弁護士は軍人だ 撃て 新聞記者は軍人だ 撃て 税理士は軍人だ 撃て 天皇は軍人だ 撃て
撃て
沈黙は軍人だ 撃て 愛想笑いは軍人だ 撃て 諦めは軍人だ 撃て 絶望は軍人だ 撃て
撃て
逃避は撃ち返す 国境を越えるものは必死に撃ち返す 亡命は撃ち返す 国境を越えながら必死に撃ち返す 大統領声明を撃ち返す
死ぬな
せめてあなただけは
すべて の 父 から 逃れよ 死ぬな
この 詩 の 生殖 は いかなる 男子 も 孕まない 契約 の 豊穣 に 期す
006
2002年12月18日
わたしだって 、怖いさ 。
何故 、
きみは
邪気を揮えるのか
?
恐ろしく
顛 倒
顛倒には独特の快楽がある
東京都品川から川崎市横浜市横須賀市の貧民窟を貫く真っ赤な電鉄 、京浜急行線の速度からは独特の快楽を得られる 。
電鉄の中では一歩も動かず 、目的地の捕捉はすべて電鉄任せ 、
弘明寺駅で下車 。
高架式改札へ向かって階段を昇り終えたら 、
顛倒した 。
顛倒には独特の快楽がある
東京都品川から川崎市横浜市横須賀市の貧民窟を貫く真っ赤な電鉄 、京浜急行線の速度からは独特の快楽を得られる 。
快楽だった 、
得がたい快楽だったよ 、そいつの
闇 。
黒い
深い
唇と 、
唇
の
交接
の
隙間 。
何処なんだろう 、あそこは
?
色んな女が駆け寄って揺り起こされた 。
上体を女たちに支えられて 、
様々な女 、女の香気の視線を睨み返して 、
想うんだよ
闇
に
引き摺り込まれる
その僅か一瞬前 、
オレの視線を捕捉した 、お前 、
女 。
お前(あの女)の眼差し
侮蔑してただろう
?
お前 。オレを侮蔑 陵辱して 、裁ち去っただろう
?
だから
オレは 、
闇
に
帰った 。
お前( あの女 )の 、
眼差し
が
捕捉した
オレは 、
青褪めて
失調した
顔
に
恥辱
を
看て
逃げ
帰った 。
そうなんだろ
?
あたたかかった
あたたかかった
何処なんだろう あそこは
?
オレ
の
この
頭蓋
の
中
?
お前(あの女)と 、
オレ
の
交接
に
濡れる
襞
の
中
?
何処なんだろう あそこは
?
顛倒には独特の快楽がある
そいつは
顛倒によってしか
得られない
侮蔑してただろ
?
お前 。オレを侮蔑 、陵辱して 、裁ち去っただろ
?
去らないで 、
教えてくれ
まだ 、裁ち去らないで 、
最後まで 、
捺しえてくれ 。
オレ 、お前 、
ひと 、そいつ
の
未明
の
在り処
を
教え 、
捺しえて 、
欲しい 。
欲しい 。
まだ 、裁ち去らないで 、
欲しい 。
まだ 、去らないで 、
007
2003年1月24日
今年を 、出遅れている 、
例年並の寒さ 、
そんな冬で 、
傷むんだ 、
踏み出す 、
その一足 。
挨拶を 、
忘れていたね 。
件名「second yearへ」 、
そんなメールが届いた 。
ありがとう 。
赦し合い 、
求めたがる 、
そのてのひらは 、
太陽が広葉樹の隙間に落とす 、
六角形のひかりのかけらを温める 、
いまは未明の淵 、
行方不明であるのなら 、
夢中になり手を伸ばせ 、
掴むものは重い 、
触れるものは滑りつつ冷たくて 、
それでも石のように堅くはない 、
ただひたすらに確かなもの 、
奪い合い 、
殺し合う 、
そのてのひらは 、
太陽のひかり 、
まどろみの午後の 、
木漏れ陽を温める 、
やがてきみに繋がれるてのひら 、
i know there's an anser
密やかに 、
赦しを 、
second year
2003
peace
008
2003年5月31日
嵐が近づいているという。
009
2003年6月1日
きみを襲うものは雨。
きみを襲うものは恐ろしい風。
このファイル「one year」を初めてアプロードした正に一年前にも、風は恐ろしく吹いた。
ひとを襲うものは、すべて力を持っている。
ときに読み取り可能な因果を遺す。
読解力をもち、攻する理知。
010
2003年6月18日
one yearとは地球時間での一年を約束しなかった。
飛躍、跳躍、躍れるものは依然、大統領というスーパー・パワーだけであり、
実のところ、ぼくはdaysを余している。
因果を明かす。
以下の詩作後に、一日の絶食を白衣の男に命ぜられた。
ぼくは医師の診断に賭ける。
やってみよう。
ひとつの理知には、幾千年の研究が、ときに栄え、ときに絶して、賭けられるときを待ち構えている。
拡散と収斂。
作戦を練ろう。
理知の拡散と収斂。
脱構築という新建設。
誰ひとり住まわない大統領府。
僅かの気を利かして「 余 白 」と訳してみる。
ペ ス ト 禍
父よ 、母よ 、
強い焦燥感 、突然に噴き出す 、
( なにものからも )
飛び降りたい 、気運 、今日 、それとの密会 、
度々の 、
ささやき 、
モウ( そろそろ ) 、イインジャナイノカ?
飲んだ水さえ 、直後に吐き下してしまう 、飼い猫 、
みふね 、
病院へ行こう 、ぼくと 、
病院へ行こう 、ぼくと 、
あたらしい猫砂を買って 、清潔な 、
清潔な 、
歩き出すことさえも 、いちいち躊躇うくせに 、
つまらない常識など 、潰せると想っていた 、
ぼくが生きていた時代の流行歌で 、
その俗謡は 、
父よ 、母よ 、
滞り 、足踏みする 、
( 結論というものの遥か手前で )
滞り 、足踏みする 、
ただ 、その無様を 、
無様な歌手が謡い 、
無様 、
父よ 、母よ 、
ぼくが生きていた時代の流行歌で 、
今日は 、
飼い猫を動物病院に連れてゆき 、
彼 、みふねが 、
水 、胃液 、
内容のない 、吐瀉物を 、
かくかくと 、足崩れ 、
水 、胃液 、
内容のない 、吐瀉物を 、
かくかくと 、足崩れ 、
咳するように 、
吐いては 、午睡に堕ちる 、
飼い猫 、みふね 、
病院へ行こう 、ぼくと 、
病院へ行こう 、ぼくと 、
あたらしい 、猫砂を買って 、清潔な 、
清潔な 、
滞り 、足踏みする 、
ただ 、それだけの 、
具体 、
内容のない 、吐瀉物を 、
消毒用アルコールで 、湿らせた 、
ペーパーで 、拭い去る 、機運 、
父よ 、母よ 、
モウ( そろそろ )イインジャナイノカ?
生命というものが 、それ自体 、死病のように 、
生命というものが 、それ自体 、死病のように 、
生命というものが 、それ自体 、死病のように 、
通院という 、プログラムが 、
かくかくと 、足崩れ 、
生活を 、
仕切る 、今日の 、
仕組まれた 、
密会 、
内容のない 、吐瀉物を 、
咳するように 、
かくかくと 、足崩れ 、
消毒用アルコールで 、湿らせた 、
ペーパーで 、拭い去る 、今日の 、
( かの俗謡が頭蓋の淵で盛る程にリピートを仕組まれている )
無様 、
父よ 、母よ 、
生命というものが 、それ自体 、死病のように 、
また 、この国に 、
( この国の )
夏が来ます 。
011
2003年8月14日
知恵たるひとの造語に「終戦」という言葉がある。
戦後というものを戦前へと回帰させない決意を滲ませて永遠に訴える。
「終戦」
「何よりも重要なのは、道徳(モラル)の詐術にわれわれが欺かれていないかどうか、それを知ることである。こう言えば、誰もがためらうことなく同意することであろう。だが、なぜ道徳はかくも軽んじられているのか。その理由を考えてみよう。
真実に対して精神が眼を塞がれないこと、それが明晰さであるとするなら、いつ起こるかもしれない戦争の可能性を見て取ることがかかる明晰さの本義であろう。戦争状態は道徳を一時中断する。戦争状態は永続的なものと思われていた諸制度や債務からその永続性を剥ぎ取り、それによって、数々の絶対的な債務を一時的に無効ならしめる。戦争状態は人間の諸活動にあらかじめ暗い影を投げかける。戦争は道徳に課せられた試練の最たるものであるだけではない。戦争は道徳を取るに足らないばかげたものにしてしまう。かくして、万策を講じて戦争を予見し戦争に勝つための技法、つまり政治が理性の遂行そのものとして幅を利かせることとなる。政治は道徳の対蹠点に位置する。哲学が愚直の対蹠点に位置するように。」
「全体性と無限 エマニュエル・レヴィナス 国文社」の冒頭を紐解く。
理解できるまで何度も一行を往復する。
脳内でSimon and Gerfunkelの「So Long,Frank Lloyd Wright」の一節が鳴り止まない。
そこに相関関係について考えざるを得ないざわめく神経があって苛々しながら、レヴィナスを辿りなおす。
新種のコンピュータウィルスが世界中のシステムをヒステリックに起動、再起動、起動、再起動、起動、再起
012
2003年8月15日
動、起動、再起動、起動、再起動させてウィルスは世界中に蔓延して「多くの創造主たちが生まれ そして また去ってゆく でも あなたの考え方は 決して変えないでください 感性が干上がってしまったら 僕はちょっと立ち止まりあなたのことを想います(So
Long,Frank Lloyd Wright/Simon and Gerfunkel CBS)」。
起こるかもしれない戦争の可能性を見て取ることがかかる明晰さの本義であろう。戦争状態は道徳を一時中断する。戦争状態は永続的なものと思われていた諸制度や債務からその永続性を剥ぎ取り、それによって、数々の絶対的な債務を一時的に無効ならしめる。戦争状態は人間の諸活動にあらかじめ暗い影を投げかける。戦争は道徳に課せられた試練の最たるものであるだけではない。戦争は道徳を取るに足らないばかげたものにしてしまう。かくして、
新種のコンピュータウィルスが世界中のシステムをヒステリックに起動、再起動、起動、再起動、起動、再起
「手は携えた病理に歓んだまま皺を刻み続けては黙祷される日を日々日常に引き込もうとしている。」
8月15日
ひとは怖いものと手を携える夜がある。
床はコルク地。
壁は昔ながらの漆喰。
物入れには襖。
一年前の仔猫の尿臭がこびりついて消えてくれない。
馬鹿げたPCシステムを築き上げたために空調を激しく動かす。
24時間と少し空調を激しく動かすとモーターがコト切れそうに悲鳴する。
この部屋の気狂いじみた不調和がオゾンへの攻撃について意図させる。
スウィッチを入れる。
親指力強くスウィッチを入れる。
部屋が軋む音がする。
部屋と部屋とを結ぶ廊下が軋轢の発生源であってここはかつての家人たちの足音をぼくの耳元で反復増幅させる。
家人たちのかつての足音なのでその音は軋んでいる。
家人がいる日には登校を拒否し得ない心境に追い遣られる。
学校に行こうと久しぶりに通学路を踏む。
幾度となく立ち止まりぼくは熱に問いかける。
いま何度ある?
37度少しという答えを期待する。
こめかみ辺りから額にかけて発火する。
ぼくは本当に熱が出る。
安心して家路を辿り今日の不登校を宣言しようと勲む。
勇んだ手で鍵を開けてひとり。
家人はいない。
コルク地を踏む柔らかい摩擦音が耳に癇癪する。
毎日を再生するように留守中にオフにしていた空調のスウィッチを入れるために親指に力を与える。
毎日を再生するようにベッドに倒れ込む。
証拠が必要なので体温計を噛む。
37度4分。
ぼくは実によくできたマシンだとぼくをスウィッチで切る。
家人が帰るとき不登校の理由を申告しないといけない。
毎日を再生するように家人の足音にだけは耳をそばだてたままに眠る。
毎日を再生された部屋では幾度となく空調の音が軋む。
オゾンへの攻撃を止めない。
オゾンへの攻撃は頑なに止めない。
オゾンが足らない。
オゾンが足らない。
オゾンが足らない。
家人がタタと廊下を過ぎ行く音に言い訳をする。
37度4分。
37度4分。
37度4分。
炎天下の中今年もこの日をだらしなく臥しながら迎える。
堪え難きを堪え偲び難きを偲び。
臥しながら直立する小国民たちが俯いているモノクロームの静止画。
堪え難きを堪え偲び難きを偲び。
モノラルスピーカの反復増幅に聞き入る。
軋んだ音がぼくの耳音で反復増幅して家人のすすり泣く声を拾う耳。
あなたという児はどうして今日も学校へ行かなかったのどうして?
あなたという児はどうして今日も学校へ行かなかったのどうして?
あなたという児はどうして今日も学校へ行かなかったのどうして?
人殺しの教師の教え子にはなりたくないからです。
体温計の数値を見てください。
もう一度発火する。
37度4分。
噛んだ体温計を口元から取り出す際にもう一度数値を確認する。
熱だ。
ぼくの熱だ。
ぼくは病理と歓んで手を携える。
病理と携えたぼくの手が空調のスウィッチを押す。
モーターが軋む音がして家人はせわしなく廊下を行き来してモノラルスピーカが堪え難きを堪え偲び難きを偲び小国民たちはその精魂を地に臥したまま直立不動で俯きながらすすり泣く声を上げて静止画に焼きついて再生すると燃え失せるせいでオゾンが足らない人殺しの教師の教え子にはなりたくないオゾンが足らない人殺しの教師の教え子にはなりたくないオゾンが足らない人殺しの教師の教え子たる小国民たちはその精魂を地に臥したまま直立不動で印画したまますすり泣く音を上げて家人がぼくに問うあなたという児はどうして今日も学校へ行かなかったのどうしてもう一度発火するの?
37度4分。
噛んだ体温計を口元から取り出す際にもう一度数値を確認する。
熱だ。
ぼくの熱だ。
ぼくは病理と歓んで手を携える。
手は携えた病理に歓んだまま皺を刻み続けては黙祷される日を日々日常に引き込もうとしている。
ひとは怖いものと手を携える夜がある。
手は携えた病理に歓んだまま皺を刻み続けては黙祷される日を日々日常に引き込もうとしている。
世界時間2003年8月15日
NARCISSE!
なかおちさと
( nakao chisato )
info@sonimage.ne.jp
sonimage groupement!!